グンゼタウンセンターつかしん(アルプラザつかしん)

 

兵庫県尼崎市に所在するショッピングセンターです。

 

1. 概要(開業期)

 当施設は1985年にグンゼ塚口工場跡地に開業しました。セゾングループの創業者、堤清二の提唱する街づくりの理念を体現した施設だったようです。西武百貨店を核としており、マインド・シアターの有楽町、メカトロの店筑波と合わせて西武三部作と呼ばれています。

 つかしん開業からほぼ1年後に出版された「西武(つかしん)地域創造シンポジウム 街づくり発想の時代 (開発)から(想像)」によると、つかしんの街づくりのポイントは以下の七点に纏められています。

  1. 複合魅力のある街
  2. 開かれた街
  3. 界隈性のある疲れない街
  4. 安全で安心な街
  5. 四季をよみがえらせる街
  6. 分かりやすく、情報に溢れた街
  7. 賑わいのある街

 まず、「複合魅力のある街」という点です。つかしんは百貨店、飲食の機能のほかにスポーツクラブ、銀行、ジョギングルート、広場、教会、飲み屋横丁などのマルチコンプレックス性を「街づくり」の柱に据えています。

国内のSCでここまで広い広場があるのは確かに珍しい

セゾンの根幹ともいえる文化情報面でもこの複合性は肝心なものと言えます。つかしんホール(上の画像の正面、茶色部分。現在はフードコート)では美術展を実施しているなか、広場では上方芸能、ヤングライブステージ(こちらも現存せず。にしまちのレンガ色の三角屋根部分がヤングライヴ館?)ではレゲエパーティを実施するなど複合性に長けている施設と言えそうです。

 「開かれた街」というのは文字通り、周辺環境との調和を目指し閉鎖感を無くすことです。そのため、にしまちは一戸建て住宅に合わせて2層の建物が中心となっています。西武百貨店(上の写真中、正面の建物)が階段状になっているのも圧迫感を低減するためだそうです。これは5番目の「四季をよみがえらす街」という点ともリンクしています。

周辺と調和していると言えそう(?)

 敷地面積が甲子園球場の1.5倍ということ(筆者はスケール感がよく分かっていない)ということもあり、「界隈性のある疲れない街」といった要素ももちろん必要になってきます。敷地内を縦貫している伊丹川に1階と2階に二本ずつの橋・連絡通路を設置して回遊性を高め、小路なども設置することで「疲れない街」を実現しようとしていたようです。

 「安全で安心な街」は一般的な商業施設とほぼ同じような感じです。防犯カメラや赤外線センサー、清掃員や駐車場誘導員の配置はもちろん、医務室の設置や消防車、救急車の配備も行っていました。警備員は警備犬とともに施設の巡回をしていました。

 つかしんの特徴を挙げる際に無視できないのは、「四季をよみがえらす街」という点でしょう。地下1階は駐車場となっているため、1階の人工地盤は無機質なものになるのではないか?と懸念していました。そこで、施設内各所に「緑」を配置しました。商業施設として特異な「緑」は落葉樹の設置です。文字通り、葉っぱが落ちるタイプの木ですので、清掃の負担増加となりコスト増に繋がります。しかし、堤は「お客が落ち葉をを踏みしめて歩く体験ができるのがいい」と考えていたため、配置に踏み切ったのです。

 一年中花に出会えるように植栽計画をたて、季節感を感じさせるようになっています。

訪問したのは2月中旬。商業施設なのに四季を感じることができる。

 6番目の「分かりやすく、情報に溢れた街」が目指したものは、個別施設を中心に配置した現にしまちや多くの入口、2箇所に分散された地下駐車場など、来街者にとって不便であり、施設運営上にも好ましくありません。「つかしんの情報」と言ってもこれまでの商業施設と異なり、百貨店の催事案内のみならずグンゼスポーツクラブの会員権、コミュニティチャーチにくる牧師さんなど、膨大の情報を扱うようになります。よって館内に「つかしん情報局」という情報中枢施設を配置し、「街」の放送を全て制御し、これを「タウンガイド」として機能させることを目標にしました。

 当時のセゾンらしい情報発信の取り組みとして、館内に14箇所のテレビ電話を設置や外部との専用回線を設置することにより、つかしん情報局とお客様(リスナー)を繋ぎ、「つかしんファン」を増やすことを目指しました。これは「つかしんダイヤル情報局」と呼ばれていました。

 つかしんダイヤル情報局は、お客様からのお問い合わせ対応の他に館内での伝言サービス、アルバイト情報などの施設の情報に加え、がん検診などの行政関係のお問い合わせに対応していました。こういった取り組みは他のセゾン系商業施設に波及させたいとありますが、他施設で同様な取り組みがみられたかどうかは分かりません。

 

 「賑わいのある街」は読んで字の如くです。館内には数ヵ所のイベント広場が設置されています。有名人のトークショーやキャラクターショーなどSCらしいイベントも開催されますが、つかしんの目指すべき姿は、主婦のコーラス会や朝のラジオ体操、正月には凧揚げが行われるなど生活感や四季感のある演出を創出することです。そのためには、地域の人々が何かパフォーマンスできる舞台や雰囲気を整備することが運営側に求められます。

 コミュニティチャーチでは、結婚式や映画会やジャズ会を実施するなど地域住民の自発的な利用が見られたようです。

 

 こういった施設づくりの方向性は21世紀を見通したもので先進的だと言えますが、SCとしては極めて非効率です。末期には「リボン館」と名乗り、百貨店部分を縮小しコープやミドリ電化ダイソーなどの専門店を導入しましたが、芳しい成果を上げることは出来ませんでした。西武百貨店の撤退を受け、つかしんは大きく変貌を遂げます。

 

1.5 概要(西武撤退後〜)

 西武百貨店の撤退には数々の理由が考えられます。1点目は上でも指摘したように、百貨店もといSCとして非効率だからです。街を意識して、落葉樹を配置していたり、季節感を創出させるために多様な花を植えることはショッピングセンターの管理という点では非効率です。至極当然のことですが、葉を掻き分けて掃除するのにも花を育てるのにも費用が掛かります。

 

 2つ目の要因として立地性が挙げられます。つかしんは、国内でも有数の商業集積地である梅田から直線距離でおおよそ9km、最寄駅である猪名寺駅から大阪駅(梅田)までは14分しかかからないという立地特性を持っています。(直下型立地理論がおそらくこれ)さらに、ダイヤモンドシティ・テラス(現イオンモール伊丹)など新たな競合の出現なども挙げられるでしょう。

 商品展開にもよりますが、地上7階建の百貨店が成立する市場とは言い難いと思います。実際、あまがさきキューズモール内の阪神百貨店も現在は食料品売場となっています。

↓あまがさきキューズモールのブログはこちら

yurinchi-plaza.hatenablog.com

 

 3点目はイトマン事件でのイメージ悪化が挙げられますが、当記事では詳しくは省略します。

 

 西武百貨店の閉店後、つかしんの再生を担ったダイナミック・マーケティング社は以下の再生計画を立てました。

 ①百貨店を中心とした広範囲な商圏設定を見直し、地域密着かつ生活必需性が高い「食」を中心にしたSC

 ②オープンモール形式のメリットを生かしながら、一般的な屋内型モールを中心とする

 ③スポーツクラブやスーパー銭湯の導入、尼崎市姉妹都市であるドイツのアウクスブルクをイメージした雰囲気、多様な生活サービス施設を導入し地域の井戸端会議場となるライフスタイルセンターを目指す

 ④イオンモール伊丹(以下伊丹)を米国型RSCと位置付け、つかしんは欧州型RSCを目指すことにした(=ライフスタイルセンター

しかし、つかしんには以下の問題点があると考えられました。

 

      i. つかしんを再生できるだけのマーケットを本当に持っているのか

     ii. 伊丹との共存は本当に図れるのか・対抗する上ではどのようにすべきか

  iii.  つかしんのイメージが最悪なのに出店する企業は存在するのか

 

 i.の克服には直下型立地という点に着目しました。都心にほど近い場所ということは多くの人が住んでいる潤沢なマーケットと考えることもできます。これは当たり前の話ですが、SCを造る際には立地特性を考慮することが肝要です。

 つかしんが商圏として設定したのは半径5kmの85万人。「余り有る庶民的マーケット」を照準とし、③を再生計画の柱にしました。

 ii.はつかしんは伊丹と対抗するよりも、商圏内の消費者にとって満足のいく共存共栄型のSCを目指すこととしました。このような、互いのSCが異質性や競争優位性により得意分野を明確化し、1つの商圏に数個のRSC、複数のCSCが成立するという考え方を「2.5のSC成立理論」と言います。後にあまがさきキューズモール、イオンモール伊丹昆陽、阪急西宮ガーデンズなどのSCが誕生しますが、この考えのもとつかしんは生き抜いていくことになります。伊丹は2006年当時では規模・売上ともに国内で有数のSCでした。しかし、地域住民にアンケートを実施すると伊丹には戦略的に捨てているニーズがあることが分かりました。ニッチニーズに応えることで魅力あるSC造りが可能になるということです。

 つかしんと伊丹の主な相違点は下にまとめます。

 

<つかしん>

・日欧志向のRSC

・平成〜昭和期のファミリー層をターゲット

・MDは「食文化」を中心にしたもの

・中域型で多頻度来館

・屋内型とオープンモールのハイブリッド

・ストリートモール形式(中央部にどーんと大きな吹き抜けがある形式ではない)

 

イオンモール伊丹>

・米国志向のRSC

・平成のファミリー層がターゲット

・MDはファッションが軸

・広範囲型で小頻度来館

・一般的なモール型SC

・吹き抜けが通路中央部にある一般的な形式

 

 さらに、つかしんには1.の概要で書いた通り「街づくり型」であったり人工物と自然が融合していたり(=四季をよみがえらせる街、複合魅力のある街)するという独自性の高いアドバンテージを持っています。外観も伊丹が一般的なハコ型SCであるのに対し、つかしんは「開かれた街」という側面もあります。

 iii.はSCの成否を決める重要なポイントです。しかし、つかしんは流通業界内、地域住民の中での評価は低く「つかしんは変わる」という認識を作ることが至上命題でした。伊丹とは違う性格を持ったSCを作ったのはこの命題を解決するためという側面もあります。出店企業にも「つかしんはSCの立地として不適当」という認識を変えてもらう必要がありました。

 

 ハード面では増床部も地域の景観に合ったものにし、駐車場をSC利用客から見えるところに置かない(従来の地下駐車場に加え、増床部高層階にも設置)などセゾン時代から踏襲している点もあります。しかし、つかしんは「デザインが陳腐化しないSC」を目指し、セゾン時代とは若干の差異を持たせようとしました。

 SCを家庭でも職場でもない第3の環境と位置づけ、(これをサードプレイスともいう)利用客に飽きられないような「しつらえ」と呼ぶべきレベルまで高めることにし、デザインを目で見るものだけではなく、脳や心に訴えかけそれを持続化することです。これには2点のぽインチがあります。

 1つ目は「意味づけ」です。利用客にしつらえの考え方や由来を理解してもらうことで、第3の空間に参加してもらおう(=しつらえの完成)とするものです。つかしんにはフードコートなどをはじめ、一つの空間に何かしらの意味付けを持たせています。

 2つ目は「必然性」です。ここで言う必然性とは、デザインと第3の空間を間接的に準強制的に体験させることです。多頻度来館型のつかしんでは、利用客がデザインに飽きることは想像に難くないでしょう。しかし、そのデザインのある空間に利用客が常に行ってしまうような何かを用意したらどうでしょうか?そうすると、利用客の美的感覚と快適性、必然性が結びつきデザインや第3の空間が持続可能な機能となります。

 つかしんは急速的にデザインが飽きられますが、空間に意味付けや必然性を保持させることで、「しつらえ感」に昇華させます。地域とSCを見えない糸がデザインや第3の空間としての場にしつらえ感を与えることになるでしょう。

 

 長々と概要を書いてしまい、申し訳ありません(笑)。リーシングやMDにおいても特徴的な点がありますが、ここからは館内の訪問レポを書きながら触れたいと思います。

 

2. ひがしまち

これが「場」の一つなのだろうか

 1階は食品、雑貨、フードコートAIがあります。テナントはコープこうべコメダ珈琲店スターバックススガキヤ、3COINS plus、生鮮食品の専門店など。フードコートAIの「AI」についての説明は写真にありますが、若干わかりにくい点があると思うので以下に書き出します。

FOOD COURT・AIは出会い(AI)・ふれあい(AI)の場でありたいという思いと、地域の皆さまに愛(AI)される場でありたいという気持ちを込めて、尼崎(A)伊丹(I)の頭文字を取り、「AI」と名付けました。

  フードコートAIは上記で触れた「第3の環境」を造る上で重きを置いた場所です。フードコート内の街並みは、尼崎市姉妹都市であるアウクスブルク市をモチーフにした物です。このアウクスブルクの街並み的な内装も、リニューアル・増床時に設置しました。

 核店舗が「アルプラザ」なのにコープが入居している点に違和感を感じた読者はいらっしゃいませんか?(ヲタク君は野暮なツッコミをしないように…)これはつかしんのリーシング方針があるのです。

 つかしんは改装時に食を基軸としたMDを構築したことは上記の通りですが、もう一点重要なポイントがあります。それは同業種間で競合させることです。前述の「アルプラザ」と「コープ」の他に「西松屋」と「バースデイ」、「阪急ベーカリー」と「ドンク」など他の商業施設とは異なったリーシング方針であることがわかります。

 1階の食品ゾーンは地元商店の生鮮食品専門店を軸にじゃんぼ總本店などが入居しており、SC内に商店街的空間を形成できていて面白いなあと思いました。

百貨店ぽいような…と思ったけど違った

増床痕

関西なんだなあと思う

 2階は衣料と雑貨のフロアです。主な店舗はGU、ABC-MART メガステージ、ライトオンです。自動車教習所の受付がある点も面白いです。にしまちへのデッキもこのフロアにあります。

90〜00年代のSCっぽい

 3階は衣料、衣料雑貨、ゲームセンターがあります。主な店舗は西松屋、バースデイ、しまむら、ディパロ。06年に増床した部分が売り場となっているのはこのフロアまでです。

一気に百貨店跡感が強まる

 4階も雑貨と衣料が中心です。主な店舗はユニクロ無印良品ヴィレッジヴァンガード。4階以上はリボン館時代から大きな改装はしていないのでしょう。日没前に西宮ガーデンズ行けるか微妙になってきたので、このフロアからの画像は少なめです…申し訳ないです。

 5階はジョーシン。普通の家電量販店といった雰囲気でした。

 6階はカルチャーセンター、ニトリデコホーム、ピュアハートキッズランド。特に感想は浮かびません。

 7階はダイソー。1フロア丸々使っているので、港北東急感があります。

3. にしまち

新生つかしんの目玉とも言えた温浴施設

 ヲタクが好きなつかしんの成分の6割ぐらいはおそらくにしまちにあります。早速中に入ってみましょう。

 建築年代の差を大きく感じる(こなみ)にしまちの一部エリアは2013年に建て替えました。1階は飲食店、スポーツクラブ、ペットショップ、温浴施設があります。主な店舗はペットショップアミーゴ、ミスタードーナツサイゼリヤグンゼスポーツなど。

 訪問時点では改装工事着手前だったので、写真2枚目の部分に行けました。80年代当時はおしゃれだったんだろうなあ感があって好き。

 2階はセガ、ふたば書房(フタバ図書じゃないよ)、手芸センタードリームなどが入居しています。少し前までは飲食店も割とあったっぽいですね。おしゃれ。

いろいろ

西武っぽい

紙のフロアガイドは「タウンガイド(?)」という名称で配布しています。

 

4. アルプラザつかしん

2006年増床時からの核店舗です。それでは見ていきましょう。

 1階は食品館です。都市部にほど近い店舗らしく賑わっています(まあ訪問したの夕方だったし…)。インストアベーカリー、時計修理店などもあります。

 2階は婦人&紳士ファッションのフロアです。アルプラザって王道を行くGMSって感じがします。(よくわかっていない)

 3階はキッズファッションと暮らしのフロアです。携帯コーナーの「通信情報センター」という表記が00年代っぽい。

5. お気持ち表明

 現在のコト消費、SCがレジャー施設化している点や都市機能を持ったSCが登場している点を考慮すれば「つかしんは失敗だった」とは言えません。もちろん、百貨店としての立地性の悪さやコストが掛かりすぎた点では失敗であったと思いますが。

 真の意味でつかしんを完成させたという意では2006年の増床を伴った改装が当てはまります。当記事の作成に大いに役立った文献には「つかしんを活気に溢れさせること」を成功のポイントとしています。サードプレイス的な戦略や、商店街的なMDを作ることで活気を作っているのだ。セゾン時代に成し遂げられなかったのは皮肉ですが…

 「兵どもの夢の跡」という視点で見ても非常に面白いSCではありますが、つかしんにおいてはリーシングやMD、ゾーニングにも着目してほしいです。

きっしょいお気持ち表明中に増床前の避難経路図が!

今回はこんなもんです。

長々お付き合い頂きありがとうございました。

 

参考文献

ダイヤモンド社 西武「つかしん」地域創造シンポジウム 街づくり発想の時代 「開発」から「創造」へ 流通産業研究所 2022年6月12日最終閲覧

(ISBN:4-478-50050-4)

日経PB社 セゾン 堤清二が見た未来 鈴木哲也 2022年5月10日最終閲覧

(ISBN:978-4-8222-5605-0)

https://web.archive.org/web/20140323140234/http://www.dynamic-m.co.jp/xdw/tsukashin-saiseimonogatari.pdf

ダイナミック・マーケティング社 グンゼタウンセンターつかしんの再生物語

2022年6月11日最終閲覧

つかしん 2022年6月12日最終閲覧